ロングバージョンビデオと授業例(サンプル)

「健康と病いの語り」ウェブページで公開している語りのクリップは、最長4分(通常は1分半から3分程度)と短いものが中心です。これは一人一人の患者の闘病記として見せるより、大勢の患者の体験をテーマ別に横串でとらえ、なるべく多様な意見・考え方を紹介することに主眼を置く、「語りのデータベース」の特性からそうなっています。しかし、医療系の学生に患者さんの思いや体験の全体像、一人の人間としての病いと向き合う姿を理解してもらうためには、2~3分のクリップではあまりにも断片的に過ぎる、という指摘があり、それにこたえるために、20分前後で、患者さんの人物像がもっとはっきり見えてくるようなロングバージョンのビデオを作成しました。それがこちらに紹介する4本のビデオです。

なお、いうまでもなくDIPEx-Japanのインタビューは、臨床の現場とは全く異なる環境で行われたものですので、学生さんが実際に実習に出た時に出会うであろう患者さんとは異なる点が多々あります。従って、これらのビデオを授業で利用するにあたっては、以下のようなインタビューの特殊性に留意して、語りを読み解いてください。

語り手の募集について

DIPEx-Japanデータベースの趣旨を理解して、自分の意思で応募してきた方々である。自分の病い体験を語り、世の中に役立てたい、という思いを持っている。

インタビューの環境について
  1. 語り手の自宅や語り手の希望する場所で実施(リラックスした環境)
  2. 語る相手(聴き手)は、ディペックスのビデオインタビュー方法の訓練を受けた者
  3. 語り手は、目の前の聴き手に語ると同時に、同じ病い体験をしている大勢の人や医療者などを意識している時もある(講演の様な聴衆に対するのとは異なるが、頭の中で想定している)。
    ・VTRの語り手は話し相手として、①自分自身(振り返りながら、独り言のような)、②実際の聞き手、③その背後にいる大勢、がその時々で変化していると思われる。
  4. 今(ワークショップ,授業、研修会など)、ビデオを見ている視聴者に対して、直接語っているのではない。

インタビュー時は、自分の体験を語ることができるようになっている状態であると理解できる。体験が混沌としているときは語ることができない状況が多いが、病い体験において大変な状況を振り返って、語ることができる時期になったからこそ、インタビューに答えてくださっている。

20代で乳がんと診断された女性の語り(21分12秒)

乳がんインタビュー42
診断時:27歳
インタビュー時:33歳(2008年10月)
九州地方在住。2002年春、右乳がんで、右乳房切除術とリンパ節郭清、同時再建(エキスパンダー挿入)、術後化学療法を受けた。エキスパンダーは、術後アレルギー反応を起こして取り出すことになり、その後、再建はしていない。 当時、離島で授乳中の子どもと夫の3人暮らし。治療中は子どもと2人で九州の実家で過ごした。その後、夫も離島を離れ、現在は家族3人で暮らしている。

診断に時間がかかった前立腺がんの男性の語り(19分40秒)

前立腺がんインタビュー02
診断時:57歳
インタビュー時:60歳(2008年02月)
診断当時は、企業の管理職として多忙な日々を送っていた。妻との間に子どもが3人。首都圏在住。吐き気、足のしびれ、腰痛など、2年近く体調不良を訴えて複数の医療機関を受診したが診断がつかず、2005年にようやく前立腺がん(ステージIV)の診断を受けた。ホルモン療法にて体調が改善したが、2年余りで再びPSA数値が上昇しつつある。

若年性認知症 A:本人の語り(10分21秒)

認知症インタビュー本人04
診断時:57歳
インタビュー時:61歳(2010年07月)
妻と2人暮らし。2004年頃、新しい職場に配属されストレスから不眠になり、メンタルクリニックを受診、うつ病と診断される。休職後職場復帰するが、仕事に支障が出て大学病院を受診。2006年に若年性アルツハイマー型認知症と診断される。診断6カ月後、36年勤めた市役所を退職。診断3年半後、有料老人ホームで介護の手伝いをすることになる。利用者の喜ぶ顔が励み。これからも何らかの形で人の役に立ちたいと思っている。

若年性認知症 B:家族(妻)の語り(17分48秒)

認知症インタビュー介護者05
診断時:47歳
インタビュー時:51歳(2010年07月)
2006年に夫が若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。夫婦2人暮らし。介護者は自宅介護をする傍ら、週の半分は家族の会の電話相談や講演活動を行う。夫は発病後、週3回有料老人ホームで入浴介助などの介護の仕事をしており、やりがいを感じ、利用者に必要とされていることを喜んでいる様子から、有り難い仕事を与えてもらったと嬉しく思っている。現在、介護に関する公的サービスは利用していない。